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着物の仕立て直しについて

男物に限らず、着物は縫い直して各寸法を調整(リサイズ)することもできる。そんな「仕立て直し」について解説しておこう。

今回のネタでお世話になった(なっている)のは地元の仕立て屋さん。松山在住で興味のある人は「愛媛和装センター」で検索どうぞ。

仕立て屋とは

仕立て屋(オレが勝手にそう呼んでるだけで正式な名称は知らん)とは、簡単に言えば生地を縫って着物を作る(仕立てる)お針子さん?縫い子さん?和 裁士さん?らのこと。技術免許?もあるらしい。

仕立ての職人さんらなので、そんじょそこらの着物屋の店員やいわゆる着物ファンなどより「着るための着物」に関する情報量や技術はハンパなくすご い。オレもそうとう勉強させてもらってる。

仕立て屋は仕立てメインの着物屋とは切っても切れない存在で、着物屋が販売受注(取引のある)仕立て屋はその製作、という形態が多い。家を売ってい るのは不動産屋だけど実際に家を建てるのは大工さん、といった感じ。

ただし大工さんもそうだけど、仕立て屋は着物屋からの依頼だけでなく一般からの依頼も普通に受け付けている。そこで、生地や古着を自分で用意して仕 立て屋に直接依頼してみよう、というわけ。

新品の着物が欲しいけど生地が高くて買えないので寸足らずの古着で我慢している人、家族や親類の「お下がり」があるけど自分にはサイズが合わないか らなあと思っている人、「オレの着物は古着だから寸法が……」その哀しき呪縛から解放してやろうじゃないか!

余分な生地(縫い込み)があるかどうか

仕立て直しには条件があって、寸法を小さくするのはいくらでも可能だけど、大きくするにはそれだけ余分な生地(縫い込み)が必要になる。画像は単衣 の長着(着モノの正式名称)を 裏返してみた様子。ポイントは輪っかで囲んだ部分だ。

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長着に限らず着物は、幅や長さを裁断ではなく縫い込みで調整してある。この余り部分がある範囲でおおむね(後述)調整することができるわけ。

着丈の場合は左の画像のように内あげがポイント。内あげは折り込んで二重になっているので倍の長さがある。裄丈は肩の縫い目部分に、前後身幅は脇 (側面)の縫い目部分にそれぞれある。ネットオークションで「裄丈は○センチ、着丈は○センチ出せます」とかあるのはこれのこと。

ただこれ、単衣仕立ての着物なら確認は簡単だけど、袷仕立ての着物は裏地が邪魔して手探りで確認するしかない。内あげは幅があることも多くなんとか なるけど、肩や脇の縫い目部分はすごくわかりづらい。

ただし古着の場合、経験上生地(反物)幅は36センチ(以下)が多く、着物の構造上縫い込みも少ないことが多いので、その点は覚えておいてほしい。

仕立て屋さんと相談

上記のはあくまでシロウトの一次予選で、このあと仕立て屋さんを交えての二次予選、仕立て屋さんと相談することになる。というのも、

>着丈を伸ばす場合は、内あげで縫い込んである幅だけでなく、襟の中に縫い込んであるおくみの余りの有無も関係してくる。10センチ以上の着丈 伸ばしは要注意。

>裄丈や身幅に関しても、縫いしろ(工作の「のりしろ」のようなもの)が少しは必要なので生地幅最大にはできない。

>袖幅はほとんどの男物着物で生地幅ギリギリに近い仕立て方をしていることも多く、驚くほど寸法変更はできない。

な どなど、一般人にはわかりづらいことがたくさんあるので、直し代(料金)なども含めてよく相談してほしい。結果として直し代を考えるとそこまでする必要の ない場合や、どうやっても「救えない」場合も出てくるけど、仕立て屋さんも魔法使いじゃ ないからこればっかりはあきらめるしかない。

ただし「同一生地にこだわらなければ」「縫い目を気にしないのであれば」といった条件付きの最終奥義?(解説)もあるし、仕立て直しだけでなくこんな構造のものはできないのかなど、 とりあえず相談してみて損はないかと。

依頼前に洗濯&水に浸しておく

仕立て直しを依頼する前に、できれば洗濯(解説)&水に浸して乾燥させておいたほうがいい。

汚れなどがある場合はもちろんのこと、今後は自分で洗濯しようと思っている着物は、せっかく仕立て直しをしたのに洗濯したらまた短くなったよ!では 目も当てられないので、それを回避するために水に浸してあらかじめ縮めておくわけ。

どれぐらいの時間がいいかはオレもわからないけど、余裕を見て半日以上水に浸しておいて(できれば途中少し動かしてやる)、そのあと軽く脱水して陰 干しすればおそらく大丈夫かと。あるいは1〜2時間水に浸して干すのを何度か繰り返すとか。

一張羅の類など自宅で洗濯しづらいもの、あるいは自分でちゃんと縮められるかどうか心配な人は、その旨を伝えれば料金はかか るけどちゃんと対応してくれるはず。

生地(反物)の状態から仕立てを頼むあるいは裏地を交換する場合も、自分で縮めてもいいし仕立て屋さんにお願いしてもいい。

ただし自分で縮める場合、生地の長さが数メートル(反物だと10メートル以上)あるため、縮みムラ?が発生するからなのかなかなか限界まで縮みにく い。オレも自分で長さを測りながら浸す→干すを繰り返してやったことがあるけど、反物の長さがほぼ変わらなくなるには、水に浸す時間だけで7〜8時 間ほどかかった(だから半日以上)。

仕立て直しの料金(参考)

参考までに、オレが依頼している仕立て屋さんの料金を書いておこう。※2010年ごろの伝票記載なので、現在は少し値上がりしてます。

>解き湯のし:5000円

>仕立て(袷、木綿ウール以外):16500円

>仕立て(単衣、木綿ウール以外):15000円

>仕立て(単衣、木綿ウール):10000円

>仕立て(浴衣):8500円

>裄丈直し:3500円?(と、言ってたような気がする)

「解 き湯のし」は、縫い糸を切ってバラして縫い目のシワをのばす工程なので(裄丈直し以外?)古着の仕立て直しには必須の工程であり基本料金。これに仕立て方 や生地に応じた縫い賃を加算したものが「仕立て直し代」だ。

裄丈の長さを変える以外は、いったん全部バラしてもう一度縫い直す必要があるので、着丈だけ直す のも、着丈と裄丈と袖丈と身頃幅を直すのも、料金は同じとか。

袷仕立ての場合は基本的に長着や羽織の裏地はそのまま使うけど、交換するのであれば裏地は自分で用意しなければならない。長着の裏地(胴 裏)は仕立て屋さんが持っていることもある(別途料金)。

一応言っておくけど、これはオレがお世話になってる松山の仕立て屋さんの話であり、定価というものがない以上、地域や店舗によって料金などは違って当たり前。詳細は依頼する店舗に確認するように。

これぞ第三の着物入手方法

着物を購入する方法としては、古着や既製品を買うか反物から新品を仕立てるかしかないように思われているけど「仕立て直し」はまさに三 つ目の方法だと思う。

仕立て直しの基本料金である「解き湯のし」を除けば、仕立て直すのも新たに仕立てるのも料金はほぼ一緒。古着や既製品で生地代を安く抑えて、あとは新品の着物を仕立てるのと同じことをするような感じだ。

例えば、父ちゃん祖父ちゃんの「お下がり」を仕立て直すのであれば生地代ゼロ円=解き湯のし代だけなので、もしお下がりが○○織りなどの高級品だとありえない 低価格で「マイサイズ着物」を入手することは充分可能なわけ。

自分の体型や好みの寸法と微妙にズレてる古着を許容範囲で着るのもいいけど、そういった古着をいくつも買うつもりなら、一着だけでいいので仕立て直しに挑戦してみてほしい。

買ったときには微妙な寸法だった着物が自分 サイズの新品同然で還ってきたとき、大げさではなくマジでびっくりして感動すら憶えるから。そして実際に袖を通してみたとき、着物の認識や価値観にきっと新たな一歩を踏み出せるはずだ。

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