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現在の浴衣と着物(長着)は区別することが可能か?

この文章は、「主に夏場に着物屋で浴衣(ゆかた)という商品名で売られているモノ」と「長着(着モノの正式名称)」の違いを、男物に関してのみオレなりに考察した内容だ。和装業界等の公式見解ではないので、その点は注意をしてほしい。

また、ここで取り上げる浴衣に似ているもので、温泉浴衣や寝巻きがあるけど、これらは似ていても構造が違う別物(解説)なので早合点しないように。

ポイントは「相違点」があるかないか

毎年6月末ぐらいから、男女問わず浴衣を着る人が増えてくるんだけど、現在市販されている浴衣を買った人は、ふとこんなことを思わないだろうか?

「浴衣と着物(長着)って、一体どこがどう違うんだろうか?」

実はこれ、オレも昔思ったんだよ。名前は違うものの、形状は長襦袢と長着以上にまったく同じにしか見えない。確かに生地の色柄が普通の長着と違って少々派手ではあるものの、形状が同じであれば「色柄ものか無地か」でいいんじゃないの?と。

また、ネット上では毎年のごとく「どんな着方をすればいいのか」「どんなときに着ればいいのか」と質問疑問が飛び交っている。

それに対して、和服に詳しそうな人が「浴衣はもともと湯文字(湯帷子(ゆかたびら)というものだから……」と事細かく講釈を垂れているんだけど、そんなに着方や着る状況が制限されるようなものを、同じようになにかと口うるさい?着物屋が、いくら既製品が多いとはいえ平然と吊し売りをするのもおかしくないか?と。

そんなわけで、浴衣と長着を区別する方法をオレなりに探してみることにした。

ポイントはたったひとつ、両者を区別することのできる「相違点」があるかないか、だ。例えるなら一卵性の双子の見分け方を探すようなもので、頬にホクロがあるだの額にキズがあるだのなんでもいい、完全に見極められる違い(特徴)さえ見つかればOKだからな。

1.「仕立て方(縫い方)が違う」→識別不可能

浴衣と長着で構造(仕立て方)が違っているのであれば、見た目で簡単に「あっ、この形だからこれは浴衣(or長着)だ!」と区別できることになる。オレが気づいていない何かがあるかもしれないので、まずはこれを比較してみた。

オレが持っている、和服(着物)の仕立て方に関するハードカバーの分厚い書籍「新しい和裁全書(大妻コタカ監修)」の目次にはこう書いてある。

大見出し:大裁ち男物の仕立て方→227〜303ページ

→中見出し:男子のひとえのきもの→228〜241ページ

→→小見出し:男子のゆかた(もめん仕立て)→228〜239ページ

→→小見出し:絹布のひとえ→240、241ページ

→中見出し:男子のあわせきもの→242ページ〜・・・

「男物の仕立て方」には「ひとえのきもの」「あわせきもの」があり、「ひとえのきもの」には「ゆかた(もめん仕立て)」と「絹布のひとえ」の2パターンがあるようだ。内容を読み比べて違いを簡単にまとめてみると、

>絹布のひとえは浴衣より小針(縫い目を細かくする)に縫う。

>絹布のひとえは縫いしろの始末を丁寧にする。

……以上、縫い方(丁寧さ)のわずかな違いがあるだけで、形状に関しては「ゆかたと絹布のひとえではこの部分が違います」といった記述がないんだよ。

和裁は縫い目そのものが表に出にくい縫い方なので、調べるにはムリヤリ縫い目を見るしかない。おまけにその縫い目は、本物か偽物かってレベルではなく「普通に縫ってるか丁寧に縫ってるか」の違いなので、普通の人が区別できるようなものじゃないんだよ。

ちなみに手縫いではなくミシン縫いも、両者とも使われているものがあるので、ミシン縫いだから浴衣(手縫いだから長着)、と区別することはできない。

もうひとつ付け加えるなら、両者の仕立て方の違いについて、オレがお世話になっている仕立て屋さんに聞いたところ、「仕立て方の違い?う〜ん、ないです。浴衣=夏用の単衣長着のひとつ、ですね」という返事ももらったからな。

結論として、誰でもわかる構造や形状の相違点はないことになる。双子を見分ける身体的な特徴は見あたらない、というわけ。

2.「生地の素材が違う」→両方ともある。

では、両者に使われる生地の素材はどうだろうか。構造や形状の違いはなくても、使われる生地がおのおの別物であればそれで区別することができるはずだ。

浴衣に使われる生地は、主に綿、麻、あるいは両者の混合タイプのもの。ウールや正絹の浴衣というシロモノはオレも聞いたことがないので、生地がウールや正絹であればほぼ(オレが知らないだけの可能性もある)長着と言えるだろう。

では逆に、綿や麻の長着は存在しないのかというと……そう、いくらでもあるんだよこれが。長着ではそれぞれ「綿→木綿」「麻→上布」と呼ばれることがあるけど、これは「絹→正絹」のようなもので、国産というかブランド名のひとつと考えてくれればいい。

構造や形状に続いて、生地の素材に関しても相違点はないことになる。双子を見分けるために肌を触ってみたものの、どちらも似たようなモノだったわけ。まあ、双子だから同年齢なのである意味当たり前か。

ちなみに、生地のブランド名まではわからないまでも、ウールと絹は、慣れれば見ただけである程度わかるようになる。着物通というか着物「痛」には、他人の着物の生地を指で触って確認しようとする人もいるけど、ソムリエよろしく「利き生地」のような真似はしないように。

3.「色柄が違う」→思い込みと個人の主観

オレが疑問に思ったように、「色柄ものが浴衣で無地が長着」でいけるような気がするでしょ?でも実は、これほどいい加減な区別の仕方はないんだよ。その理由は2つある。

「長着は暗色系で地味な柄」という思い込み

ひとつめは、今まで引っ張ってきた双子の話で考えればわかる。

Y(浴衣のY)さんは色柄ものの服をよく着ている、N(長着のN)さんは無地の服をよく着ている、だから両者を見分けるには服装を見れば一発!……とはならない。なぜなら、そうである可能性は高いけど、必ずしもその服装とは限らないでしょ?

Yさんが無地の服を着ていたら「おまえはYじゃない、Nだ!」と、間違えることはあったとしても、実際に本名が変わることはありえないからな。

同じように「男物の着物(長着)は暗色系で地味な柄」と思い込んでしまっていて、それに該当しないものはすべて浴衣と見なしてしまっているわけ。実際は、長着にも明色系で派手な柄のものはあるし、浴衣にも暗色系で地味な柄のものもあるわけで、色柄を基準に呼び名を変えるのはおかしな話なんだよ。

色柄の基準は個人の主観

もうひとつは、別のたとえ話として「年齢当て」がいいだろう。

「俺は何歳だと思う?」とぜんぜん知らない人に聞かれて、一発でその人の年齢をピッタリ当てられることはそうそうない。なぜなら、年齢を絞り込むポイントや判断基準が人によって違うからだ。

童顔の人もいれば老け顔の人もいるし、子供っぽい雰囲気の人もいれば大人びた雰囲気の人もいるし、着ている服の趣味は人によってバラバラ。ある程度は年齢に応じた傾向があるだろうけど、多くの人が「45歳に違いない」と見立てても、その人が35歳だと証明すれば35歳であり、多数決でその人の年齢が決まるわけではない。

同じように、論理的な「これこれこういう色柄は浴衣(長着)」といった基準が存在しないため、色柄の判断基準は個人の主観になってしまう。ある人は絶対浴衣だ!と言い、ある人は間違いなく長着!と言う状況がおこりうるわけ。しかし、それが浴衣か長着かはすでに決まっていることであり、多数決でどうこうなるものじゃないんだよ。

染め、織りの柄とプリント柄

ただし、浴衣の生地によく見られるパターンもあるにはあるんだよ。そのひとつが、生地の柄がプリントか否か、だ。

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物体?が描かれているやつはプリント柄が多く、生地を裏から見れば、プリント柄Tシャツと同じ原理で色柄がぼやけているんだよ。生地に色柄をプリントすればいいのだから、そんなに手間がかからず比較的安価に作ることができるからか、着物屋の店頭で数千円で売られている既製品はだいたいこれ。

それに対して、織り方や染め方によって色柄を表現している生地のものは、裏から見てもほとんどぼやけない=表裏の区別がつきにくい。生地の製造段階から手間をかけなければいけないので、プリント生地より生地代も高くなるため、誂え用に使われることが多い。

しかし、プリント生地を使って誂えるものもあるし、織りや染めで色柄を表現している生地の浴衣もあるので、やっぱり生地の製法や品質からも区別できないわけ。ちなみに参考画像はもちろん「両方とも浴衣として売られていたもの」だ。

浴衣の定番柄?

それと、竜虎柄や吉原つなぎのような古典柄など、浴衣に多い定番柄?もあるにはある。しかしこれも上で書いたように、市販されている浴衣によく見られる柄というだけで、浴衣だと決定づけることはできない。

同じようなもので、金魚や風鈴など夏の風物詩柄?というのもある。これだとさすがに浴衣と言わざるをえない……とはやっぱりならない。夏っぽい柄か否か、でしかないんだよ。

4.「襦袢や足袋の併用」→個人の着方の自由

では、着方(使い方)で区別することを考えてみよう。地肌に直接着るのが浴衣で、襦袢や足袋を併用するのが長着……実はこれも色柄と同じで、「足袋と襦袢を使うのが着物(長着)」と刷り込まれているので、それ以外を浴衣として扱っているだけ。

浴衣を着るときには地肌に直接着なければいけないわけではなく、長着を着るときには襦袢や足袋を併用しなければいけないわけでもない。もちろんTPO(解説)を考えた上でだけど、どういった着方をするかは基本的に個人の自由だからな。

時代劇に出てくる普通の町人をよく観察してみると、襦袢や足袋を使っているのはごく一部の人で、ほとんどの町人が襦袢も足袋も使っていないはずだ。もちろん、時代考証がちゃんとなされているのが条件だけど、着方で区別する理論でいけば、江戸時代以前の町人の多くは、年がら年中浴衣を着ていることになってしまうでしょ。

例えるなら、双子を行動パターン?で見分けようとするようなもので、先ほど解説した色柄の違いと同じで、ある程度の傾向があるものの、実際はどんな行動をするかはわからないし、行動パターンで本名が変わるわけじゃあない。

着方が個人の自由である以上、それをもって浴衣と長着を区別することはできないんだよ。

浴衣も単衣長着と考えれば問題なし。

以上4つの項目について解説してみたけど、結局のところ、双子を完全に見分けることはできない=浴衣と長着の決定的な違いがないので、区別しようにも区別ができないんだよ。

だったら、無理に区別しようとしなくていいんじゃない?

呼び方に関しては、特に3つめの「色柄の違い」を各自が判断して、今までどおり「浴衣」でいいよ。でも使い分けに関しては、色柄の違いはあれどともに「長着」であり、そこまで厳密に考えなくてもいいんじゃないかな。

おそらく着物の中では一番身近である(現在の)浴衣。「痛」の目なんて気にしなくていいから、「色柄ものの着物」として気軽に着てみてほしい。

おまけ:現在の浴衣と湯帷子は別物

この「浴衣と長着の違い」を書くことにしたのは、実は、最初のやりとり?で書いたように「浴衣はもともと湯帷子(ゆかたびら)といって……」と、由来を引っ張り出してきて初心者の出鼻をくじく連中を黙らせるため(笑)

湯帷子とは、その昔ある程度身分の高い人?が風呂=湯船に入るときに着ていたもので、それがやがて湯上がりの体を冷ます時に着られるようになったとか。この頃に名称が湯帷子→浴衣へと変わったのかもしれない。

早い話が浴衣とは本来、日本式のバスローブのようなものなので、連中はこれを元に、浴衣で出歩くのはバスローブで出歩くのと同じで好ましくない、と言っているわけ。確かに、この考え方自体は別におかしくもなんともない、それはそうだとオレも思うよ。

しかしここで検証したように、現在の浴衣は「ゆかた」という呼び名が残っているだけで、モノとしては普通の長着と区別しようがないほど同じもの=バスローブとは別物(しいて言えば、もとの湯帷子に近いのは、襟の構造などから温泉浴衣や寝巻きだろう)である以上、本来の浴衣と同じ使い方に制限する理由がないんじゃね?とオレは考えるわけ。

もっともらしいこと言ってるけど、それがかえって着物への「壁」になってることに気がついてくれればいいんだけどなあ。

また別の見方をすれば、そもそも販売業者が「色柄ものの着物(長着)」として売り出していれば、こういった無用の混乱は起こりにくかったのかもしれない。名称が「着物」と「浴衣」では、浴衣のほうが庶民性?をアピールできるからかもしれないけど、そんなことをしていると、結局は自分で自分の首を絞めることになりかねないと思うんだけどね。

Last 2014/07/10. Copyright (C) since 2007 バカガエル.